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研究概要

研究室ホームページによる紹介

研究内容の解説

大気中に存在する微粒子であるエアロゾルは,動植物への影響の他に,エアロゾル・放射相互作用(直接効果)およびエアロゾル・雲相互作用(間接効果)を通して地球大気の放射収支に影響を及ぼし,気候変動の要因となることが指摘されています。エアロゾル・放射相互作用とは,エアロゾルが太陽光や地球からの赤外放射を散乱・吸収することによって放射収支に変調をきたす効果を言います。アロゾル・雲相互作用とは,エアロゾルは雲の凝結核の役割をするために,エアロゾルが増減すると雲の粒径に変化が生じ,雲の反射率や降水生成率が変化することを言います。したがって,温室効果気体による温暖化ほど一般的には知られていませんが,人間活動による大気中のエアロゾル増加に伴う気候影響を評価することは,将来の気候変動予測の観点からも非常に重要です。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価によると,エアロゾル・放射相互作用およびエアロゾル・雲相互作用による大気の冷却効果は,温室効果気体による温暖化をいくらか相殺すると報告されていますが,この評価には非常に大きな不確定性が含まれています。この不確定性は,気体とは異なりエアロゾルは0.001~100ミクロンの大きさを持った物質であるために大気滞留時間が短く分布に時間的・空間的不均一性が高いこと,また化学組成や光学特性に多様性があることから,気候変動評価に必要なモデルの開発が遅れていることが一因です。

そこで私達は,東京大学大気海洋研究所(気候システム研究系)国立環境研究所海洋研究開発機構共有の気候モデルMIROCをベースとした全球3次元エアロゾル輸送・放射モデルSPRINTARSを開発し,エアロゾルの地球規模での分布やエアロゾルの気候影響を定量的に評価できるようになりました。SPRINTARSでは,対流圏の主要エアロゾルである炭素性(黒色炭素・有機炭素)・硫酸塩・土壌性・海塩エアロゾルを扱い,発生・移流・拡散・化学反応・除去(雨・雲・乱流・重力落下によるもの)といった一連の輸送過程を計算しています。また,気候変動の影響を評価するために気候モデルの放射過程とリンクしています。さらに,エアロゾル・雲相互作用による雲粒径や降水量の変化の過程も含んでいます。詳細はTakemura et al. (2000, 2002, 2005, 2009)を参照してください。

図1は,SPRINTARSにより計算された各エアロゾルの地表付近の年平均濃度を示しています。土壌性エアロゾルはサハラ砂漠やアラビア半島から発生・輸送されているのが目立ちます。炭素性エアロゾルはアフリカ中南部やアマゾンから乾季に森林火災や焼き畑によって放出されているのが顕著です。アジア・ヨーロッパ・北アメリカ等の北半球中緯度では都市活動によって排出された炭素性・硫酸塩エアロゾルが大気中に多く存在しています。海塩エアロゾルのピークは南緯50-60度付近にあります。この計算結果は人工衛星・地上・航空機からの観測と比較するとエアロゾルの分布や特性をよく再現していることがわかります。

BC OC sulfate soil dust sea salt
図1:黒色炭素(左上)・有機炭素(中上)・硫酸塩(右上)・土壌粒子(左下)・海塩粒子(中下)の地表付近の質量濃度の年平均分布

SPRINTARSは短期のエアロゾル輸送も再現することが可能です。図2は,2001年4月に発生した大規模黄砂現象時の土壌性エアロゾルの光学的厚さの日平均分布を示しています。発達中の低気圧により大量の黄砂が6日から9日にかけて断続的にゴビ砂漠周辺から発生し,その後寒冷前線後面に沿って中国沿岸・朝鮮・日本へと東進しました。さらに,発生から約1週間後には北太平洋を横断してアメリカ大陸へ到達しました。これらの時空間分布は人工衛星からの観測とよく一致しています。

図2:2001年4月8, 12, 14日の土壌粒子の光学的厚さの日平均分布


図3には,人為起源エアロゾルによるエアロゾル・放射相互作用およびエアロゾル・雲相互作用による大気上端での放射強制力の年平均分布を示します。放射強制力は正であれば大気を暖め負であれば冷やすことを意味します(IPCCの評価では人為起源温室効果気体による全球平均放射強制力は+2.30 W m-2と見積もられています)。エアロゾル・放射相互作用の放射強制力は,都市域や森林火災地域で太陽光を散乱する効果が大きいためにほとんど負の強制力になっています。一方,都市域や森林火災地域を起源とする黒色炭素の流出域では,正の強制力となっている地域もあります。エアロゾル・雲相互作用の放射強制力は,アジア・ヨーロッパ・南北アメリカ・アフリカ南部で強い負の強制力となっています。人為起源エアロゾルによるエアロゾル・放射相互作用およびエアロゾル・雲相互作用の放射強制力の全球平均値は,それぞれ-0.1, -0.9 W m-2と見積もられています。

図4は,273K以上の雲頂における水雲の有効半径・雲水総量・降水量の人為起源エアロゾルによる変化量のシミュレーション結果を示しています。エアロゾル第1種間接効果と関連のある雲粒径は小さくなる地域がほとんどであり,特にアジア・ヨーロッパ・南北アメリカ・アフリカ中南部で大きな減少となっています。また,雲水量の増加(減少)に伴い降水量も増加(減少)している地域が多く,特に熱帯域でその傾向が顕著です。これはエアロゾル直接効果及び第1種間接効果による気温低下に伴う水循環の変化に起因しています。一方,人為起源エアロゾルが多く存在している東・東南アジアや北・熱帯大西洋では,雲水量の増加と降水量の減少が同時に起きており,エアロゾル第2種間接効果のシグナルが水循環の変化よりも大きいことを示唆しています。

aerosol direct radiative forcing aerosol indirect radiative forcing
図3:人為起源エアロゾルによる年平均エアロゾル・放射相互作用(左)・エアロゾル・雲相互作用(右)放射強制力

cloud effective rdius liquid water path precipitation
図4:人為起源エアロゾルによる273K以上の雲頂における水雲の有効半径(上)・雲水総量(中)・降水量(下)の変化量

私たちは気候変動評価の不確定性を減らすために,エアロゾルの気候影響に関する研究を継続する必要があります。

研究プロジェクト(研究代表者分のみ)

  • 環境研究総合推進費(戦略的研究開発領域)S-12 テーマ3「数値モデルによる気候・環境変動評価と影響評価」(2014~2018年度)
  • 科学研究費補助金(基盤研究A)「エアロゾル地上リモートセンシング観測網による数値モデルの気候変動予測の高度化」(2015〜2019年度)
  • 科学研究補助金(挑戦的萌芽研究)「気候モデルに適用する新しい雲・降水成長スキームの開発」(2015〜2016年度)
  • 最先端・次世代研究開発支援プログラム「数値モデルによる大気エアロゾルの環境負荷に関する評価および予測の高精度化」(2010~2013年度)
  • 科学研究費補助金(若手研究A)「数値モデルを用いた大気エアロゾルの気候に対する影響の予測」(2009~2010年度)
  • 地球環境研究総合推進費(地球環境研究革新型)「4次元データ同化手法を用いた全球エアロゾルモデルによる気候影響評価」(2009~2010年度)
  • 三井物産環境基金研究助成「データ同化手法を用いた地球規模でのエアロゾルの排出量推定と気候影響評価」(2009~2010年度)
  • 科学研究費補助金(若手研究A)「大気エアロゾル予報モデルの開発」(2006~2008年度)
  • 昭和シェル石油環境研究助成「大気エアロゾルの気温変動に対する影響評価」(2006年度)
  • 科学研究費補助金(若手研究B)「全球エアロゾル輸送・放射モデルを用いたエアロゾルの気象場に対する影響に関する研究」(2003~2004年度)
  • 科学技術振興調整費(若手任期付研究員支援)「気象モデルによるエアロゾルの気候影響研究」(2002~2006年度)
  • 科学研究費補助金(特別研究員奨励費)「エアロゾルの全球規模輸送モデルの開発及びその気候に対する影響に関する研究」(2001年度)
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